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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)1006号 判決

原告 関口ハナ 外一名

被告 大鋳輝雄 外一名

主文

被告大鋳は金四九四一九四円、同永田は金七九五一四七円、及び各自右金員に対する昭和三四年九月一日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を原告等に各支払え。

原告等の右各被告に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告等の、その余を被告等の各負担とする。

この判決は原告等勝訴の部分に限り被告大鋳に対し金一五万円、被告永田に対し金二〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告両名訴訟代理人は「被告大鋳は金四九四九二三円、被告永田は金一〇二五四二七円、及び各自右各金員に対する昭和三四年九月一日より右完済に至るまで年五分の割合による金員を原告等に対し各支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、

その請求原因として、

一、(1) 大阪市西成区山王町一丁目一四番地の二地上、家屋番号同町第一七番、一、木造瓦葺二階建店舗一棟建坪一三坪六合二勺、二階坪一二坪五合三勺、(2) 同所同番地上、家屋番号同町第一七番の一二、一、木造瓦葺二階建店舗一棟建坪一三坪二合五勺、二階坪一一坪七合三勺、(3) 同所同番地上、家屋番号同町第一七番の一三、一、木造瓦葺二階建店舗一棟坪数前同(以下順次(1) の家屋、(2) の家屋、(3) の家屋という。)は各原告等の共有に属するところ、原告等は昭和一九年四月頃(1) の家屋を被告大鋳に、同一八年五月頃(3) の家屋を、同一九年四月頃(2) の家屋を右被告の内縁の妻である被告永田に賃料は(1) (2) につき月四五円、(3) につき月六〇円、各毎月末持参払の約定で期間の定なく賃貸し、長らく地代家賃統制令の適用を受け右賃料は数次の増額をへて昭和二五年七月頃には各戸につき右停止統制額範囲内である月一一五〇円となつていた。然るところ被告永田は同二五年頃から(2) (3) 各家屋に数次の改造工事をなし階下の土間(店の間コンクリート打床)を部屋に改造する等してこれを一戸の如く使用して旅館営業を始め、被告大鋳は同二七年一〇月頃より(1) 家屋を改造してそこで麻雀屋を開業するに至りその後今日まで継続して右各用に供しているので同二五年七月一一日施行政令第二二五号による改正右統制令(爾後の改正においても同じ)により右開業当時より従つて現在も又右統制令の適用を排除されるに至つている。

二、而して賃貸当時は勿論の事昭和二五年七月頃に本件各家屋の賃料が一一五〇円に決められて以来凡そ原告等の予想しえなかつた著しい経済事情の変動が次々おこり特に家屋賃料決定と相関関係にある土地の価格や家屋建築費の昂騰は顕著でありこれを戦前基準価格推移指数によれば六大都市市街地の内商業地価格指数(昭和一一年九月を一〇〇とする)は同二五年九月に五五二七、同二八年九月に二五三四三となり、木屋家屋建築費指数(同一三年三月を一〇〇とする)は同二五年九月に一六三七五、同二八年九月に三七七二六となり物価においても同様の昂騰を示している。一方昭和二八年七月二五日当時における右経済変動により昂騰した本件家屋の客観的相当賃料は右各推移指数を当初の家賃に乗じたもの、家屋の減価償却費、賃料集金額の五%の管理手数料、その他の管理費用(本件の如き増額賃料訴訟における弁護士費用もこれに含まれる)等を考慮して計算すると各戸二〇〇〇〇円と認められた。そこで右変動下においても従前賃料決定後相当期間を経過しているに拘らずこれを維持することは公平に反すると認めたので原告等は昭和二八年七月二五日付書面で被告各人に対しその賃料を一戸当月二〇〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなし右は同日各被告に到達した。しかしながらその後当時係属中の原告等の各被告に対する本件家屋明渡請求調停(同二七年末頃申立)において偶々賃料増額案が出た際鑑定人三宅は当時の本件家屋の賃料を(1) につき一二六八四円、(2) (3) にき各一一九六九円と、同森島もほゞ同様の鑑定をしたので原告等は右結果をも綜合して再考の末同二八年一一月一六日付書面で前賃料増額の意思表示を各戸一〇〇〇〇円とする限度で訂正する旨意思表示をなし、右は同月一八日各被告に到達した。よつて右の結果前示到達の翌日である同年七月二六日より本件各家屋賃料は適法に月一〇〇〇〇円に増額された。

三、仮に二八年七月二五日付増額請求(後訂正されたもの)の存在及びその主張額が認められずとも同年九月二八日原告関口ハナ代理人をかねた同関口フジは被告大鋳と、(1) の家屋の賃料を同日以後月一〇〇〇〇円に改定する旨の契約をなしたから少くとも同被告に対しては右契約により同日よりその約定どおり増額された。

四、かくして前示のとおり本件各家屋の賃料は昭和二八年七月二六日(被告大鋳に対しては予備的に同年九月二八日)より月一〇〇〇〇円となつたが同日以後更にその頃予想しえなかつた経済変動が続発し、物価は勿論特に家屋賃料決定に相関関係ある土地建物の価格昂騰は著しく、即ち一般物価は同三四年三月には二八年七月頃の数一〇倍となり第二項にのべた価格推移指数によれば六大都市市街地の内商業地価格は同三三年三月頃には同二八年九月頃の七割二分強増、地域別でみれば市街地価格は昭和三〇年三月以降三ケ年間に二倍余になり、又本件家庭に仮に地代家賃統制令(以下統制令という)の適用ありとしてその制止額を計算するとそれですら(1) については二八年度三八八四円、三四年度五二四九円で約三割六分強増、(2) (3) については各前者三五八三円、後者四九〇一円で約同率の増額となつている。一方昭和三四年四月一日当時のかかる変動により昂騰した本件各家屋の客観的相当賃料は(イ)三四年四月に本件家屋について支払つた保険料金一戸分八〇〇〇円、(ロ)三四年度及び三二年度の家屋評価格の比較により算出した本件家屋の減価(1) につき月一〇四〇円、(2) (3) につき各月二〇〇〇円、(ハ)その他第二項にのべた事項、(ニ)鑑定人中村、同江見の各鑑定の結果、等を考慮して計算すると各戸一五〇〇〇円と認められたので第二項後段にのべたと同様の理由によつて同三四年三月三〇日付書面で各被告に対し本件各家屋の賃料を同書面到達の翌日より月一五〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなし右翌三一日各被告に到達した。よつてその翌日である同年四月一日より右のとおり適法に増額された。

五、前述のとおり本件各家屋の賃料は増額されたに拘らず被告等はこれを争つて支払わず、原告等よりその主張額の正否は裁判によるが少くとも統制停止額(二八年当時のもの)の支払を催促され漸く昭和三四年四月七日被告大鋳は同二八年七月二六日より三四年二月末日までの右停止額相当金二六二〇一二円被告永田は右同相当金四八八四四三円を各提供したのみであるので原告等はこれを右期間の各月分相当増額賃料の内金として充当受領した。従つて原告等は同二八年七月二六日より同三四年八月三一日までの右各増額家賃の残金即ち被告大鋳につき金四九四九二三円、同永田につき金一〇二五四二七円及び被告各自に対し右各金に対する最終月分の支払期日の翌日である同年九月一日より完済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、被告等の答弁に対し、

一、被告大鋳は(1) 家屋の一階全部を麻雀遊戯場営業用に、二階六畳及び附属押入、廊下(北側のもの)便所を被告永田の旅館営業用に昭和二八年七月二五日当時以降今日も継続して現に使用中であり被告永田は(2) (3) 家屋の二階全部及び一階の一部を旅館営業用に右同期間現に使用中であり、坪数が既に一〇坪を超えるから右期間施行中のいづれの改正統制令第二三条但書、同施行規則第一一条に言う併用住宅にも該当しない。

とのべ、

証拠として、甲第一号証の一及び二、同第二号証、同第三号証の一及び二、同第四号乃至第七号証、同第八号証の一乃至四、同第九号証、同第一〇号証の一乃至三、同第一一号乃至第一三号証、同第一四号証の一及び二、同第一五号証、同第一六号証の一及び二、を提出し証人関口愛子、同永田節子、同棚野誠幸及び被告本人関口フジの尋問結果並びに鑑定人江見利之及び同中村忠の各鑑定結果、及び検証の結果を各援用し、各乙号証の成立を認め同第一号証を利益に援用した。

被告等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告等の請求原因事実中、その主張の本件家屋(1) を被告等が、(2) (3) を被告永田がそれぞれその主張の日時頃に原告等より期間の定なく賃料は(1) (2) につき月六〇円、(3) につき四五円、各月末払の約定で賃借した事実、被告等が内縁関係にある事実、右各戸の賃料が主張日時頃には月一一五〇円となつていた事実、主張各増額請求当時被告大鋳が(1) 家屋を麻雀遊戯場営業の、被告永田が(2) (3) の家屋を旅館営業の、各用に現に供していた事実及び昭和二八年一一月一六日付主張家賃訂正趣旨の、及びその訂正額による支払催促の書面を被告等が受領した事実は認める。本件(1) 家屋は被告大鋳が客室面積八坪八合四勺として営業認可を受けているがその内店の間のみでその借家主であり住居主である同被告が自己の営業たる麻雀遊戯場を営んでいるものであるから原告主張各増額請求当時施行の改正統制令第二三条但書、同施行規則第一一条の併用住宅に該当するから右令の適用を受け原告等主張の賃料は同令違反である。又(2) (3) 家屋についてはその主張増額は著しく不当である。

とのべ、

証拠として、乙第一号証及び同第二号証を提出し、証人永田節子の証言、被告両名の各本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一及び二、同第三号証の一及び二、同、第四号証、同第七号証、同第八号証の一乃至四及び同第九号証の知事作成部分のみの各成立を認め同第二号証、同第五号証、同第六号証、同第九号証中右に成立を認めた残余の部分はいづれも不知とのべ、その余の各甲号証については認否をなさない。

理由

第一、先づ原告等がその主張日時頃に本件(1) の家屋を当初の賃料月六〇円で期間の定めなく賃貸し(2) (3) の家屋を被告大鋳の内縁の妻である被告永田に各期間の定めなく、当初の賃料(2) につき月六〇円(3) につき月四五円各月末払、の約定で賃貸し、以来統制令の適用を受け二五年七月頃の賃料が各戸月一一五〇円であつたことについては当事者間に争がない。原告主張(1) の家屋の借主については当事者間に争があるが、これは原告主張どおり被告大鋳であつて被告両名ではないことは後に認定するとおりである。又右各家屋が原告等の共有に属すること及び右賃料が持参払の点は被告等において明らかに争はないから各自白したものと見做す。尚右賃料が当時の統制額範囲内であることは被告等の争のない点よりこれを認める。爾余の原告等主張事実中被告等に不利な事実(但し後に特記あるものは除く)については被告等は明らかに争う旨の陳述をしないが弁論の全趣旨によりこれを争うものと認める。

第二、次に原告等主張の昭和二八年七月二五日付賃料増額請求の当否について判断する。

(一)  先づ本件各家屋の増額賃料を一戸当月一〇〇〇〇円に訂正する旨の同年一一月一六日付書面が被告等に到達した事実については争がない。次に成立に争のない甲第一号証の一及び二同第三号証の一及び二、によれば原告等は被告等に対し代理人棚野誠幸弁護士により同二八年七月二五日付書面で本件各家屋につき従前賃料を月二〇〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなし、右は同日各被告に到達し、次いで同年一一月一六日付書面で右増額賃料を一〇〇〇〇円に訂正する旨の意思表示をなし、ぞの各被告に到達した日は同月一八日である事実が認められる。尚甲第一号証の一には本件(1) (2) 家屋についてのみ二〇〇〇〇円に増額する趣旨の如き感を与える部分もあるが成立に争のない甲第三号証の一及び各被告本人尋問の結果により認められる、甲第一号証の一が前提としてのべている調停では本件三戸全部について増額問題がおこつていたのであり、甲第三号証の一にも右第一号証の一で本件全家屋につき増額請求した趣旨の記載があり、同第一号証の一が弁護士の作成にかかるものであること、他に特に(3) の家屋のみを除くべき事情も認められない点等からむしろ右部分は本件(2) (3) が一括して旅館用に供せられ外観上、構造上も一戸の如くなつている点より不用意な表現をしたに過ぎず、やはり右甲第一号証の一には本件(1) (2) (3) 各戸についての増額の意思表示が記載されているものと解する。

次に抑々賃料増額の意思表示は賃貸借契約に基く抽象的基本的賃料債権の賃料額を賃貸人の単独行為により増額する形成権の行使に外ならないから一旦その効果が発生すれば後にこれを部分的にも撤回或は遡及的に訂正することは不可能であるところ、原告等主張の「訂正」及び甲第三号証の一にいう「訂正」は放棄の意味をも含むと解しうるから、右二八年一一月一八日付意思表示により原告等は同年七月二五日付で既に二〇〇〇〇円に増額されたとの前提の下に抽象的基本的賃料債権及び右債権に基き本「訂正」意思表示までに毎月末既に発生した支分権的具体的賃料金支払請求権の各一部(一〇〇〇〇円の限度で)を放棄(即ち免除)する意思表示をしたものと認める。

(二)  次に原告等の主張の昭和二五年七月以降同二八年七月二五日付増額請求時までの家屋賃料決定に相関関係ある経済変動の存否について考えるに、昭和二五年頃以降に経済変動が続発しその結果右相関関係にある物価、土地建物の公租公課が昂騰したことは公知の事実でありその程度は被告等において明らかに争はないからその成立の真正を自白したものと見做す甲第一二号証によれば日本勧業銀行調査部による戦前基準価格推移指数は日銀東京卸売物価指数については(昭和一三年三月を一〇〇とせば)二五年九月一九六三九、二八年九月二六九一五となり、六大都市市街地の内商業地及び全国木造建築費については夫々原告等主張のとおりの指数値となつている事実が認められる。右認定に反する証拠はない。

(三)  次に前示増額請求当時本件家屋に統制令の適用があつたか否かについては(1) 家屋について争があり(2) (3) については争がないが右は強行法規であるから職権で調査する。

当時施行の右改正統制令(昭和二七年七月三一日法律第二八四号)第二三条、同施行規則(同二五年七月二五日経済安定本部令第一六号)第一〇条、第一一条によれば、一般に事業用(令第二三条各号の)建物(現にその事業の用に供する建物)には同令の適用がないがその内同令同条第三号乃至六号の用に供する建物であつても〈1〉それが右事業部分と居住用部分が結合している住宅で(A)前者の床面積が一〇坪を超えないこと(B)その住宅の借主が右事業の事業主であることの二要件を具備する場合は「併用住宅」として、又右を具備せずとも〈2〉事業用建物の内居住用部分が(a)当該建物の他の部分を管理するために借主又はその使用人の用に供する部分でないこと(b)事業用に供する目的で当該建物を賃借した者が自己の居住の用に供する部分でないことの二要件を具備する場合にはその居住部分は、特に同令の適用を受けるものなるところ、これを本件についてみるに、先づ被告大鋳が(1) 家屋で麻雀遊戯場を、被告永田が(2) (3) 家屋で旅館業を営業している事実については当事者間に争がない。そこで

(イ)  (1) の家屋について、甲第九号証と対照して及び証人関口愛子の証言によりその成立を認める甲第五号証、同第六号証文書の性質、作成者形式及び原告関口フジの本人尋問の結果によりその成立を認める甲第九号証及び証人関口愛子、同永田節子の各証言、被告大鋳の本人尋問の結果(後二者につき後記措信しない部分を除く)、並に検証の結果によれば、被告大鋳は本件(1) の家屋を当初物置及び居住用として借り受け昭和二五年頃より同家屋二階六畳の間及びその附属押入以北の部分を被告永田が旅館用に供するのを承諾し爾後同被告に同所をその事業用に使用させ、自己も又、昭和二七年中頃より階下を改造して客室面積八坪八合九勺の認可を受けて麻雀遊戯場を開業しその結果前示原告等の増額請求日時現在においては(1) 家屋の内被告大鋳はその階下店の間(コンクリート床打)(間口五尺二寸、奥行三尺九寸五分)、同奥の間六畳、同便所の内小便所(便所は営業用居住用両用であるからその半分が事業用面積に計算される)及びそこに至る縁側部分(両者合計約間口三尺一寸五分奥行六尺一寸五分)を各麻雀営業用に、階上六畳の間以北の部分を旅館業の、各用に供しており、右事業用部分面積は階下約八坪九合強、階上約六坪五合強計一四坪四合強となる事実及び階上七畳には、麻雀営業の従業員一名と被告等が居住している事実が認められる。右認定に反し階下六畳の間は営業用に供していない旨の証人永田、被告大鋳の各供述部分は検証の結果(調書添付写真参照)及び営業許可申請が客室八坪八合九勺でなされている点等に照し措信せず他に右認定に反する証拠はない。然らば前示〈1〉の(A)は坪数一〇坪をこえる点、同(B)はその営業用部分の一部の事業主が借主以外の被告永田である(たとえ内縁関係あるも当該部分の賃貸借契約の当事者名義、事業主名義を基準とするから)点で各具備せず、次に右階上七畳の間他の居住用部分も営業用部分を管理するための居住乃至は事業用賃借人自身の居住と認められるから〈2〉の(a)(b)要件を具備せず、結局前示「併用住宅」にも「居住部分」にも該当しない。

(ロ)  次に(2) (3) について、前項掲示各証拠及び成立に争のない甲第七号証、及び乙第一号証によれば、被告永田は当初(B)を住宅用(2) を航空機木工業営業所兼住宅用として借受け、後昭和二四年から二五年にかけ右両家屋に大改造を加え、(2) については階下表の間コンクリート打部分に私室二個を、階上東北端に洗面場を各設け、(3) については階下右同表の間に旅館用玄関、応接室を、裏庭には風呂場を、階上には裏側従前ベランダ部分に三畳相当面積分の客室他附属部分を各設け、右改造当初より旅館業を始め(2) (3) の階上全部、(2) (3) 階下の一部(玄関、応接室、風呂場便所)をその事業用に供し右改造の結果後記(次の(四)において)認定のとおり(2) の階下は従前どおり一三坪二合五勺、同階上は一三坪二合三勺、(3) の階下は一四坪五合五勺、階上は一二坪九合三勺となり、(2) の階下の新設私室には右営業主被告永田の実子訴外永田節子が、その奥の間(検証調書「私室六畳」とある部分)には右事業従業婦(仲居)が居住し、(3) の階下奥の間(右同)には被告永田の母(訴外永田節子の祖母)が居住している事実が認められ、右によればその業態、使用部分比率、等よりして右居住者はいづれもむしろ旅館業の従業若くはその管理のために居住するものと認められ右認定に反する証拠はない。

然らば前示事業用面積の超過の点より右(2) (3) 各家屋は前示〈1〉の併用住宅に該当せず、又借主(その家族は他に独立の生計手段を持つて別生活する等特別の事情がない限り法の趣旨よりこれに含まれると解する)又はその使用人がその事業用部分管理のために居住している点より右(2) (3) 中居住部分はいづれも前示〈2〉の「居住部分」にも該当しない。

よつて以上本件各家屋はいづれも昭和二八年七月二五日現在統制令の適用を排除されていることとなり、従つてその賃料額についても停止統制額による制約はない。

(四)  次に昭和二八年七月二五日当時における本件各家屋の客観的相当賃料について判断する。

抑々客観的賃料は家屋の現存使用価値の対価であるからその使用価値の算定に当つては先づ現に使用(或いは利用)されている状態を基準とすべく、その状態が借家人の改良、修繕等によりもたらされた場合においてもその費用償還如何の如き賃貸借当事者間の主観的特殊事情は考慮されるべきでなく、次に相当賃料は結局は右現存使用価値の構成要素の消却としてそれに営利性を加味して算定すべきであり、右基準としては、即ち前提的事項として家屋の立地条件、面積の大小、方位現状及びその本来の用途と現使用用途等を考慮の上、(1) 家屋敷地の現在評価格、(2) 家屋の現在評価格、(3) 特別改造ある場合その費用、(4) 家屋に投ぜられるべき補修費又は維持費の年間平均額或は減価償却率、(5) 諸税金、(6) 支払わるべき火災保険料、(7) 家屋建築年数、将来の耐用年数、(8) 資産消却期間等を基本条項とし、更に当初において家賃前払的性質をもつ権利金の有無等を考慮すべきところ、これを本件においてみるに、先に成立を認めた甲第五号証、同第六号証、同第九号証、成立に争のない同第七号証、乙第一号証、原告関口フジ及び各被告本人尋問の結果、並に検証の結果によれば昭和二八年七月二五日当時本件各家屋は南側は南海電車、阿倍野百貨店、地下鉄阿倍野駅前より同動物園前を経て、更にその西方に通ずる国道(両側商店街)に沿う五軒建一棟の東端寄の三戸で飛田歓楽街、天王寺公園、新世界の各繁華街を至近にもつ商業地内にあり、その両隣は訴外人の麻雀店、その東隣は西成山王郵便局であることが認められる。そして通常或る意味で(例えば住宅用として)消極的影響を与えると考えられる右飛田歓楽街に近いことは被告等の営業上はむしろ積極的な面をもつものと認める。更に前掲証拠によれば本件家屋の建築当初の面積は各原告等の請求原因冒頭でのべるとおりであるが前項(第二(三)(ロ))認定の如き改造の結果昭和二八年七月二五日付増額請求当時には(2) の家屋は建坪一階従前どおり一三坪二合五勺二階は洗面場が増加したので、一二坪二合三勺となり(3) の家屋は風呂場と階上三畳分が増加したので建坪一階一四坪五合五勺、二階坪一二坪九合三勺となつており、いづれも間口は一五尺二寸、奥行三五尺二寸の元来店舗用に建てられたもので、その使用現状は前項(第二(三)(ロ))判示のとおりであり(2) (3) については前同項に判示の改造の外各室を旅館用に改造し(2) の階段を閉鎖し、階上、階下共に奥の間の南側に両家屋を東西に貫通する廊下を設ける等して右の間の南北各一ケ所で両家屋の室内における往来ができるようにし、階上については(1) 家屋の前示旅館用部分及び(2) (3) 各家屋を往来できるようにして、右(1) の六畳外の部分を(2) (3) の附属的部分として同一用途に包括的一体的に恰も一戸の家屋の如く使用しているが、かかる使用状態に拘らず所有権の対象及び本件賃貸借契約の対象賃借物としては未だやはり(1) (2) (3) の各戸は独立的に取扱われていることが認められる。よつて各戸の賃料算定に当つてその使用価値を考える場合は前示のとおり右現状における使用区分を基準とすべきところ、前掲各証拠により認められる面積、構造、全体における効用、相互の位地関係、その属する建物の主たる使用主と借主等の点よりすれば(2) (3) 家屋は相互に不可分一体の使用関係にあるものと解するのが自然であるが(1) の家屋の階上旅館業に供されている部分は前に(第二(三)(イ))説明したところより(2) (3) 家屋の旅館業としての使用に供されていることは明であるが、その階上部分のみが階下を離れ隣家の一部の使用域に当然包含されていると認めるのは不自然でむしろこれとは別に本来一戸に区劃された(1) 家屋自身の階上階下不可分の使用域に属するとみるのが自然であるから以下右(2) (3) を一体として一個の使用価値対象として(1) については階上階下をまとめた一個の同対象として扱うこととする。(然し前示のとおり賃貸借契約の対象としては当事者間に右各家屋各別に扱われて来ているから終局的には賃料は右各戸別に決めざるをえない。)

次に右認定前提的事項の上に前示基本条項及び右使用価値対象としての一体性を考慮して具体的額を決定することとする(尚その算定の特殊性より鑑定結果が重視される)。

先づ算定基準として原告等の主張する五%の管理手数料については立証なくこのままでは基準となしえず、同じく弁護士費用の点については毎年通常発生する経常費と認められず、保険料についても増額請求時頃より以来昭和三四年までに少くとも契約された点についても証拠がないから俄かに基準となしえず、特別改造費については前認定の如く認められるがその額については立証なく、その一部については、右改造による家屋価値増加分として爾後の家屋評価格においてある程度評価されていると認められる。減価償却率等については鑑定結果による外ないが特にこれを対象とする鑑定もない。そこで次に前示基本的基準条項につき具体的数字をあげこれに基き又前示前提的事項についても考慮しこれにっきほゞ当裁判所と同様の認定基準に立つて算定している点より採用しうる鑑定人中村の鑑定結果によれば昭和二八年九月二八日当時の本件家屋の客観的相当賃料額は(1) について月九九〇〇円、(2) (3) 各戸については月八〇八七円、(1) (2) (3) の階上及び(2) (3) の階下を一括して賃貸した場合は(これは即ち右全体を一ケの使用価値対象としている場合である)月二一〇三六円となつている。

尚成立に争のない甲第八号証の二及び三は昭和二八年七月二五日付増額請求当時の鑑定ではあるがその根拠について右の如き具体的説明を欠く点で、又鑑定人江見の鑑定結果は右と同じ欠点並びに改築時及びその頃近隣に新設ホテルが出来たことを本件(2) (3) 家屋の価値減少原因として重くみる点で当裁判所の判断と必ずしも合致しないので、いづれも俄に採用し難く、他に右鑑定結果に反する資料はない。尤も前認定にかかる本件家屋の使用価値対象としての一体性よりすれば(1) の階上階下を、(2) (3) の階上階下を一括した賃借対象としてなした賃料の鑑定結果によるのが妥当であるが右に採用した鑑定人中村忠の鑑定には右方法で算定したものがないのでその内右一体性による賃借対象に最も近い対象区分により算定された右金額によることとする。そこで右の(1) (2) (3) の階上及び(2) (3) の階下を一体的使用価値対象として算定された右賃料月二一〇三六円を前示本件家屋の使用価値対象としての一体性により前認定現存坪数に従つて調整(21036 ×(2) (3) 階上及び階下坪数合計/(1) (2) (3) 階上(2) (3) 階下坪数合計)((1) についは各ケ別賃料として鑑定されたものを採れば調整の必要なし)すれば(2) (3) 合計につき一七〇一一円となる。尚今ここで(2) (3) 各戸別の相当賃料額を算定(多少の坪数、構造上の差異あるもその使用価値対象としての一体性及び本賃貸借契約自体は従前のとおり各戸を個別的にその対象としていること等を考慮せば右額を等分すればよいものと認める。)することは後記の如く実益がないので敢えてしない。又右鑑定時と本項請求時の間には賃料算定上は差を生じないものと認める。よつて家賃前払的性質を有する権利金等の授受もなく、別に特段の事情のない本件においては(1) につき月九九〇〇円、(2) (3) 合計につき一七〇一一円を昭和二八年七月二五日当時の客観的相当家賃と認める。

(五)  最後に右同日付増額請求権行使により適法に増額された賃料額について考えるに、前第二(二)項掲示各証拠によれば同項判示経済変動はその程度よりして前賃料決定当時には存在せずその後に生じたものでしかも右はその当時到底予想されえなかつたものと認められ、前項客観的相当賃料が右経済変動によつて生じたものであることは公知の事実であり、前賃料決定後約三年間経過した右増額請求当時においてかかる経済変動下に従前賃料を維持することはその差額よりして公平に反すること明白であり、且つ本件においては他に右増額限度を請求当時の客観的相当賃料より減額すべき特別の事情も認められないから昭和二八年七月二五日付増額請求により本件各家屋の賃料はその請求意思表示の各被告に到達した日たる右同日の翌日である同月二六日より適法に前項判示の各客観的相当家賃まで増額されたものと認める。よつて原告等の主張は右限度で理由がある。

第三、次に原告等の被告大鋳に対する仮定的主張につき判断する。

成立に争のない甲第四号証、証人関口愛子の証言、原告関口フジ被告大鋳の各本人尋問の結果によれば被告大鋳が昭和二七年中頃に(1) 家屋を相当程度改造して麻雀遊戯場を開業したので原告等は昭和二七年一二月初右改造及び他の被告永田の(2) (3) 家屋の改造が共に特約違反なりとして契約解除に基く本件各家屋の明渡を被告等に求める調停を申立て、審理中、賃料を増額して右契約を継続することとなり、その額につき交渉中偶々被告大鋳が右営業許可申請の際家主原告等の家屋使用承諾書を偽造した事実が発覚し原告等より告訴されその取調中、右調停とは別個に右告訴事件の処理に関連して検察官より示談を勧告された事実右示談交渉において原告関口ハナ代理人を兼ねた同原告関口フジは賃料一二〇〇〇円を主張、被告大鋳は八〇〇〇円を主張したが同被告は被告訴人の弱身もあり右告訴の取下げ引いては自己に有利な処分を期待して同二八年九月二八日結局本件(1) 家屋につき賃料を月一〇〇〇〇円に同日以降増額する旨の契約を右原告関口フジと結び同日検察官の面前で自ら甲第四号証を作成署名捺印し、かくして右示談が成立し原告等は告訴を取下げた事実を各認めることができる。尚右認定に反する証拠はない。然らば原告主張の増額契約が確定的になされたものと認められ他に右契約の効力の消滅原因等につき何等の主張もないから昭和二八年九月二八日より本件(1) については適法に賃料が月一〇〇〇〇円に契約により増額されたものである。

よつてこの点の原告等の主張は理由がある。

第四、最後に昭和三四年三月三〇日付本件各家屋賃料の増額請求の当否について判断する。

(一)  先づ被告等において明らかに争わないからその成立の真正を自白したものと見做す甲第一〇号証の一乃至三によれば、原告等は代理人弁護士鈴木八郎により昭和三四年三月三〇日付書面で本件各家屋につき同書面到達の翌日より従前の家賃を各戸月一五〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなし右は翌同月三一日各被告に到達した事実が認められる。

(二)  次に原告等主張の前家賃決定時(被告等に対しては昭和二八年七月二六日被告大鋳に対しては更に同年九月二八日)以降右増額請求当時までの期間における家賃決定と相関関係にある経済事情の変動の存否について考えるに、前項掲示の各証と同様に成立の真正を自白したものと見做す甲第一一号証、同第一三号証、同第一四号証の一及び二、並びに先に成立を認めた甲第九号証及び同様争ないものと見做した甲第一二号証によればこの間の一般物価は其の間神武景気と称される短期間の好景気時代を除き概ね所謂鍋底景気に低迷してこれを第二項(二)同様物価推移指数にみれば、先づ日銀東京卸売物価指数(昭和一三年三月を一〇〇とする)は同二八年八月、二六九一五、三〇年三月二六九二三、同年同月を一〇〇とせば三四年三月末は九九となり殆んど騰つていないに拘らず家屋賃料決定に相関関係ある地域別市街地価格推移指数中商業地地価は(昭和一一年九月を一〇〇とせば)二八年九月二五七八三、三〇年三月三六六四九、同年同月を一〇〇とせば三四年三月末は二一六となり、又六大都市市街地価格推移指数の内商業地は(昭和一一年九月を一〇〇とせば)二八年九月二五三四三、三三年九月四四六〇九で更に三三年一〇月から三四年三月までの間に六%上昇しており、同じく全国木造建築費推移指数は(昭和一三年三月を一〇〇とする)二八年九月三七七二六同三〇年三月三八七三二、同年同月を一〇〇とせば三四年三月末は一一二、・八と後半に著しい上昇を示していることが認められる。この外仮に本件各家屋に統制令適用ありとしてその停止統制額の推移をみると、二八年七月において(1) につき三八四四円、(2) (3) 各戸につき三五八三円(右は原告等の計算に従い被告等が異議なく支払つている事実より一応正しいものと認める)三四年度では右甲第一四号証の一及び二の敷地、及び価格の評価額により計算すれば前者は五二四九円(約三割六分強の増額)後者につき四九〇一円(同上程度の増額)と認められる。尚原告等主張のこの間の物価が数一〇倍になつた旨の主張は認めるに足る証拠がない。然し原告等主張のその余の経済変動の存在は概ねこれを認めることができる。

(三)  次に右増額請求時における本件各家屋に統制令の適用の有無について考えるに、当時施行の統制令(昭和三一年四月一九日法律第七五号)第二三条但書、同施行規則(同三一年六月一九日建設省令第二四号)第一〇条、第一一条によれば同令第二三条排除の要件は第二の(三)判示の昭和二八年七月二五日当時より更にきびしくなり「併用住宅」については七坪以下の法第二三条第四号乃至第七号事業用部分と三〇坪以下の居住用部分とを有する住宅で当該住宅の借主が後者に居住し同人が前者で行う業主であることを要し、「賃借部分」についてはその床面積が三〇坪以下で右同号事業用建物内の居住用部分で当該建物の他の部分を管理する者がその居住用に供する部分でないものなることを要するところ、本件各家屋の使用状態は昭和二八年七月二五日付増額請求権行使当時と異るに至つた(特に事業用部分が減少した)事実を認めるに足る証拠もないから第二(三)(イ)(ロ)判示と同様の理由により昭和三四年三月三一日当時も本件各家屋は右統制令の適用を受けない。

(四)  次に右三四年三月三〇日増額請求に基き増額された相当額について判断する。

先づ当時の客観的相当家賃について考えるに一般的にこれを決定するに当り考慮すべき事項及び算定の基本的基準事項については前第二(四)において判示したとおりであり、その各事項が右増額請求権行使当時いかなる状態にあつたか及び右前提的事項及び使用価値対象としての一体性については売春防止法が同三二年四月一日より施行されたことは公知の事実であるからこれによつて飛田歓楽街の近隣にあるための立地条件上の積極面の多少の減少も考えられるが同時に健全娯楽乃至は商店街への転向による積極的影響も考えられるのみで他に前回の増額請求権行使当時と著しく異るに至つた事実を認めるに足る証拠はないから右同所に判示したとおりである。次に右算定の基本的基準についてみるとその内管理手数量弁護士費用については同所判示のとおりでその他については(イ)本件各家屋の敷地を含む宅地の昭和三四年度課税評価額が一六一坪五三で五四一五四〇〇円であること、(ロ)保険料についてみると被告等において明らかに争はないからその成立の真正を自白したものと見做す甲第一五号証によれば原告等は昭和三四年四月安田火災海上株式会社と本件各家屋を含む五軒一棟について保険期間一ケ年保険金五〇〇〇〇〇〇円、保険料四〇〇〇〇円の約定で損害保険契約を結んでいる事実が認められ、(ハ)減価償却参考事項として右同様に成立の真正を自白したものと認める甲第一六号証の一及び二、同様に先に成立を認めた同第一四号証の一及び二によれば課税台帳上の本件家屋の固定流産評価額は(1) については昭和三二年度七一三〇〇〇円、同三四年度六八八〇〇〇円(二五〇〇〇円の減価)(2) (3) の家屋について同三二年度六八一〇〇〇円、同三四年度六五七〇〇〇円(二四〇〇〇円の減価)と各評価されている事実が認められる。

他方第二(四)判示のとおり採用しうる鑑定人中村の鑑定結果によれば昭和三四年四月一日現在における(1) 家屋の賃料は月一四二二九円、(1) (2) (3) の階上及び(2) (3) の階下を一括して賃貸した場合の賃料は月二八九〇六円となり、これに前示同様に本件家屋の使用価値対象としての一体性により調整すると(1) はそのまま、(2) (3) 合計賃料は月二三三七六円(銭以下四捨五入)となる。右鑑定結果には前記算定基本事項である保険料については考慮されていないものと認められ、しかも右保険料の性質上将来継続して支払われるべきものであるから前示保険料一戸当り月六六七円(銭以下四捨五入)を右賃料額に加算すれば(1) につき月一四八九六円、(2) (3) 合計につき月二四七一〇円となる。従つて第二(四)判示のとおり特別の事情もない本件においては右金額を昭和三四年三月三〇日現在の客観的相当賃料額と認める。右認定に反する証拠はない。

然らば前同所判示と同様の理由で(但し前賃料決定後の経過期間は本項においては約五年半であるからより強い理由があることとなる。)本件家屋賃料は前同日付増額請求権行使により右意思表示の到達の翌日である同年四月一日より右各客観的相当賃料額まで適法に増額されたこととなる。

第五、結論。

以上判示のとおり本件家屋賃料は(1) については昭和二八年七月二六日より月九九〇〇円に、同二八年九月二八日より月一〇〇〇〇円に、同三四年四月一日より一四八九六円に、(2) (3) 合計額で昭和二八年七月二六日より月一七〇一一円に、同三四年四月一日より二四七一〇円に各増額になつたこととなる。そして昭和三四年四月七日被告等よりその各賃借家屋につき昭和二八年七月二六日より同三四年二月末日分までの各家屋停止額(二八年度(1) につ三八四四円、(2) (3) 各戸につき三五八二円)相当金合計即ち被告大鋳は金二六二〇一二円、同永田は金四八八四四三円の提供があつたので原告等において右期間の各月分の原告等要求賃料の一部弁済として受領充当したことについては原告等の自陳するところであり被告等にも争がない。従つて被告等は右増額家賃による昭和二八年七月二六日より同三四年八月三一日までの残家賃支払義務即ち被告大鋳は金四九四一九四円同永田は金七九五一四円の支払義務を有することとなる。しかも右各家賃が月末払であつたことは当事者間に争がなく、又被告等が右各自の賃料金支払義務(尚右充当残額についても同様)はいづれもその各月分につき弁済期を徒過している事実についても被告等は明らかに争はないから自白したものと見做すべく、然らば被告等に何等反対の主張立証のない本件においては被告等は右各月分の賃料支払義務につきその各弁済期の翌日である翌月の最初の日より遅滞の責を負うこととなるから被告等が本件請求賃料全部につきその最終月分の弁済期の翌日である昭和三四年四月一日にはおそくとも遅滞に陥つていることも明らかである。

よつて原告等の(尚原告等において別段の主張がないから原告等の各被告に対する本件賃料債権の主張は平等の割合の分割債権の主張と解する。)昭和二八年七月二六日から同三四年八月末日までの(同年三月三一日までは本件各戸につき月一〇〇〇〇円同年四月一日以降は各戸月一五〇〇〇円の割合による)残賃料として被告大鋳に対し金四九四九二三円、同永田に対し金一〇二五四二七円、及び右各自につき右各請求金額に対する同三四年九月一日以降の民法所定の年五分の割合による遅延損害金を併せて請求する本訴請求は主請求については被告大鋳に対しては金四九四一九四円、同永田に対しては金七九五一四七円の各支払を求める限度において理由があり、又附帯請求については基本債権が右限度となる外は全部、理由があるというべきであるから右限度においてこれを正当として認容し、原告等の各被告に対するその余の請求を理由なきものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九八条第九二条第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 常安政夫 杉本昭一)

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